交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント(死亡慰謝料3)

まだまだ暑い日が続きますね。
実は、私は昔からブドウが大好きで、特に巨峰とピオーネには目がないのですが、9月はそれらのブドウの旬の時期なので、実はとても楽しみな月でもあります。

今回は、慰謝料の加算事由について裁判所がどのように考えているか、裁判例とともにご紹介します。

まず、慰謝料の加算事由は、大きく分けて
①加害者に故意もしくは重過失(無免許、ひき逃げ、酒酔い、著しいスピード違反、ことさらに信号無視、薬物等の影響により正常な運転ができない状態で運転等)または著しく不誠実な態度がある場合、
②被害者の親族が精神疾患に罹患した場合、
③その他、の3パターンがあります。

中でもケースとして多いのが一つ目の①加害者に故意もしくは重過失または著しく不誠実な態度がある場合です。
この例としては、加害者が酒酔い運転で車両を対向車線に進入させ事故を生じさせたうえに、事故後加害者が携帯電話を掛けたり小便をしたり煙草を吸ったりするだけで救助活動を一切しなかったこと、捜査段階で自らの罪を逃れるため被害者がセンターラインを先にオーバーしてきたと供述したことを考慮し、一家の支柱であった被害者本人につき2600万円、妻500万円、母500万円の合計3600万円を認めた裁判例(東京地判平成16年2月25日)があります。
これは、酒酔い運転という重過失、救助活動をせず、捜査において虚偽の供述をするという著しく不誠実な態度が考慮されたものと考えられます。

 次回は、死亡逸失利益について取り上げます。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント(死亡慰謝料2)

前回のブログで、私は冬と夏とを比べたら夏のほうが好きと言いましたが、最近の暑さに前言を撤回しようかとすら思い始めています。
工事現場などで作業される方向けに、ファンがついていて服の内部を空気が循環するようになっている空調服というものがありますが、スーツの下に着ても違和感のないデザインの空調服が販売されれば、この蒸し暑さが少し和らぐのになあ…などと思っています。

今回は、今回は、保険会社に任せきりにしていると低く見積もられてしまう死亡慰謝料のお話として、慰謝料の加算事由とは何かのお話をさせていただきます。

そもそも、慰謝料とは被害者の精神的苦痛を金銭に換算して賠償するものであり、一口に交通事故による精神的苦痛といっても人により感じ方は様々ですし、交通事故の形態も個々の事案ごとに大きく異なるため、それを一つ一つ掬い上げて金銭評価することは非常に困難です。
そのために、自賠責基準でも弁護士基準でも、怪我の程度や後遺障害の等級などの大まかな事故の内容ごとに慰謝料の基準を定め、ある程度の事情については一般的な不利益としてその中に含まれると考えられています。
もっとも、その「一般的な不利益」を超えるほどの重大な事由については、慰謝料の金額の考慮要素として評価すべきというのが裁判所の考え方です。

次回は、死亡慰謝料の加算事由についての判例を紹介いたします。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント(死亡慰謝料)

突然ですが、みなさんは夏と冬どちらがお好きでしょうか。
私の家族は、強いて言うなら冬と言っており、その理由としては、
①冬は着こめば何とかなるが、夏は仮に裸になっても暑い。
②東京で冬に凍死する人はめったにいないが、夏は熱中症で死亡するおそれは非常に高く、真に警戒すべきは夏である。
とのことでした。
私は昔から寒いのが本当に本当に本当に苦手で、確かに上記の理由は一理あるとは思っていても、夏と冬なら夏の方が好きです。

今回は、保険会社に任せきりにしていると低く見積もられてしまう損害賠償金の項目として、死亡慰謝料のお話をさせていただきます。

死亡慰謝料とは、交通事故により死亡してしまったことにつき、その死亡した本人が被ったであろう精神的損害と、その遺族が被った精神的損害をあわせたものです。
自賠責保険では、死亡した本人の慰謝料が350万円、遺族(被害者の父母、配偶者及び子ども、養子、認知した子、胎児を含む)の慰謝料が、請求者が1人の場合は550万円、2人の場合は650万円、3人以上の場合は750万円で、死亡した被害者に被扶養者がいる場合はこの金額に200万円を加算するとされています。
一方で弁護士基準(裁判所基準)の場合、死亡した被害者が一家の支柱(当該被害者の世帯が,主として被害者の収入によって生計を維持している場合をいいます)だと2800万円、母親・配偶者だと2500万円、その他(独身の男女、子供、単身の高齢者など)の場合2000万円から2500万円とされています。
自賠責保険の基準では、死亡した本人の慰謝料と遺族の慰謝料が別に規定されていましたが、弁護士基準の場合は本人の慰謝料と遺族の慰謝料をあわせて上記の金額となります。
このように、自賠責基準と弁護士基準を比較してみると、スタートラインからして金額が大きく違うことがわかります。
さらに、弁護士が金額の交渉をする場合、慰謝料の加算事由というものも重視され、これが金額に大きな影響を与えます。
次回は、死亡慰謝料における加算事由について説明いたします。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント(後遺障害逸失利益③)

段々とジメジメした日が増えてきましたね。
昔は雨の日があまり好きではなかったのですが、弁護士になった一年目にかなり奮発してよい傘を購入してから、雨の日がむしろ楽しみになりました。

なりたてほやほやの新人弁護士には痛い出費だったのですが、大事に使うのでどこかに置き忘れて無くすこともないですし、丈夫なので壊れることもなく、もう十分に元は取れたのかなとも思います。

前回は、損害額の計算を相手方保険会社任せにしていると後遺障害逸失利益が低く見積もられてしまうケースの一つ目として、労働能力喪失期間の算定についてお話ししました。
今回は、相手方保険会社任せにしていると後遺障害逸失利益が低く見積もられてしまうケースの二つ目として、基礎年収をいくらとするかについてお話しします。

後遺障害逸失利益とは、後遺障害が生じたことで労働能力が一部または全部失われ、それによって本来将来にわたって獲得できるはずであった賃金等の収入を失ったことに対する補填です。
そして、将来にわたって獲得できるはずであった収入の算定は、原則として事故当時の実際の収入額を基礎として計算するのが明確ではありますが、後遺障害逸失利益は将来の長期間にわたる所得の問題であり、特に日本は年齢が上がれば上がるほど収入も上がっていくという年功序列制度がまだ強いため、将来にわたって事故当時の低い収入額を基礎とするのが相当ではない場合があります。
そのため、おおむね30歳未満の若い方については、賃金センサスの全年齢平均賃金を用いるのを原則とするのが裁判所の考え方です。

ところが、保険会社は、そのような方針を知ってか知らずか、若い方の逸失利益の計算でも当然のように事故当時の低い収入額を基礎とした提示を出してきます。
ここでそのまま納得して示談してしまうと、後遺障害逸失利益の金額が下手をすると数百万近く変わってしまうケースもあるのです。

次回は、死亡慰謝料についてお話しします。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント(後遺障害逸失利益②)

5月くらいの気温って、そこまで暑くもなく寒くもなく、とても過ごしやすいですよね。
私は春生まれだからなのか寒いのも暑いのも大の苦手なため、四季なんてなくていいからずっと5月くらいの気候でいてほしいなんて思ってしまうことがあります。

前回は、自賠責から支払われる後遺障害逸失利益は本来受け取れるはずの金額よりかなり少ない可能性があること、損害額の計算を相手方保険会社任せにしていると損をしてしまう可能性があることをお話ししました。
今回は、前回お話ししたポイント以外にも、損害額の計算を相手方保険会社任せにしていると後遺障害逸失利益が低く見積もられてしまうケースの①労働能力喪失期間の算定、についてお話しします。

交通事故における後遺障害の建前としては、症状固定後その症状が今後一生治ることがないことを前提としており、原則として労働能力喪失期間は症状固定時から67歳まで(症状固定時の年齢が67歳を超える場合または症状固定時から67歳までの年齢が簡易生命表の平均余命の2分の1より短くなる場合は、簡易生命表の平均余命の2分の1の期間)です。

ところが、後遺障害として認定される事案の多くを占める、いわゆるむち打ち症状については、裁判所の指針として、「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)の場合は5年程度、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)の場合は10年程度に制限する例が多く見られます。
これは、神経症状は器質的損傷(身体組織そのものに生じた損傷)とは異なり、普段の生活でだんだん痛みに慣れてくることが多く、一生治らないとはいえないという判断によるものと言われています。
そして、保険会社もこの裁判所の判断に乗っかって、当然のように労働能力喪失期間を制限した示談案を提示してきます。

もっとも、すべてのむち打ち症状で痛みがなくなっていくわけではなく、個々の怪我の大きさ次第となりますし、仮に制限されるとしても何年とすべきかは個別判断となるはずです。
さらに、保険会社は、神経症状以外の場合ですら特に理由なく労働能力喪失期間を制限してくるケースも多々あります。

ですので、保険会社が提示してくる示談案の中には、弁護士が精査すれば労働能力喪失期間が大幅に伸び、後遺障害逸失利益が倍近くになるケースも少なからずあるのです。

次回は、弁護士に依頼することで後遺障害逸失利益の金額が非常に大きく変わるケースの二つ目、②基礎年収をいくらとするか、についてお話しします。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント(後遺障害逸失利益①)

4月となり、出勤時に新入社員なのかな?と思われる若い方を見かけることが多くなりました。
私も含め、弊事務所の新人弁護士の入所時期は4月ではなく12月なのですが(司法修習が終わり、二回試験の結果が出て法曹となる資格を得るのが12月半ば→結果が出次第すぐに入所となるため)、それでも4月になるとなんとなく初々しい気持ちになってしまいます。

前回では、弁護士基準と自賠責基準で基準が大きく違う項目の2つ目として、「後遺障害慰謝料」のお話をさせていただきました。
今回は、「後遺障害逸失利益」のお話をさせていただきます。

そもそも、後遺障害逸失利益とは何か?ですが、簡単に言えば「交通事故による怪我で後遺障害が生じなければ事故前と同じように今後も100パーセントの能力で仕事ができたはずなのに、後遺障害によってその能力が一部または全部失われてしまったことにより被害者が被った不利益を補填するもの」です。
後遺障害によってどれだけの不利益が生じたかについては、個々の被害者ごとに個別具体的に算出するのではなく、後遺障害の等級や種類に応じて類型的に「労働能力喪失率」としてパーセンテージが決められています。

この労働能力喪失率に、被害者の基礎収入と労働能力喪失期間に相当するライプニッツ係数を掛けたものが、後遺障害逸失利益となります。

ここまで読んで、「労働能力喪失率があらかじめ決まっているのなら、自賠責基準で計算しようが弁護士に依頼しようが特に変わらないのでは?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、労働能力喪失率に争いがあるごく一部の事案を除き、パーセンテージの部分については基本的には変わりません。
ところが、自賠責基準の場合は、後遺障害等級に応じて支払われる金額に上限があるため、実際に生じた逸失利益を全額支払ってもらえるわけではないのです。

例えば、後遺障害14級が認定された場合、後遺障害慰謝料として32万円、後遺障害逸失利益として43万円の、合わせて75万円を上限として支払われますが、本来であれば多くの方が上限を超えることが予想されます。
仮に、後遺障害14級(労働能力喪失率5パーセント)、基礎収入200万円、労働能力喪失期間5年(ライプニッツ係数4.594)とすると、計算上は200万円×0.05×4.594=45万9400円となるはずですが、前述のとおり自賠責基準では上限が43万円となるので、上限を超えた2万9400円分は受け取れないことになります。

保険会社各社が被害者あてに出してくる示談書の内訳を長年見ていると、傷害慰謝料や休業損害は自賠責基準ではなく「弊社基準」(自賠責基準より若干高いが、弁護士基準よりはだいぶ低めです)で出してくることが多い一方で、なぜか後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益は自賠責基準どおりの金額で出してくることが多いので、相手方保険会社任せにしていると本来受け取れるはずの後遺障害逸失利益より低い金額で示談させられてしまう可能性があります。

また、それ以外にも、保険会社任せにした場合と弁護士に依頼した場合では、そもそも①労働能力喪失期間が何年か、②基礎年収をいくらとするか、の2点が大きく異なる場合があり、本来であれば計算式自体が違うということも十分あり得ますので、弁護士に依頼することで金額が非常に大きく変わるケースも少なからずあります。

次回は、この①について解説していきたいと思います。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント(後遺障害慰謝料)

「1月は往ぬ、2月は逃げる、3月は去る」などと言いますが、この間お正月だったと思ったのにもう3月になってしまいました。
春分の日を過ぎても東京は寒い日が多いですが、暦の上では3月はもう春ですので、これから少しずつ暖かくなってくるのが楽しみです。

前回は、「弁護士基準と自賠責基準の違い」という話から少し横道に逸れて、むちうちで他覚所見がある場合とない場合の違いということについてお話しさせていただきました。
今回は、話を戻して、弁護士基準と自賠責基準で基準が大きく違う項目の二つ目の「後遺障害慰謝料」のお話をさせていただきます。

自賠責基準の場合、例えば14級が認定された場合は後遺障害慰謝料として32万円、12級が認定された場合は93万円が支払われます。
一方で弁護士基準の場合、14級が認定されたときの後遺障害慰謝料は110万円、12級が認定された場合は290万円となり、自賠責基準と弁護士基準を比較すると3倍近い差があることになります。
自賠責保険はあくまで最低限の保障でしかないので、本来受け取るべき金額とは大きく差があることになります。
なお、この弁護士基準の金額はあくまで基本の金額なので、増額事由によってはこれより高い金額となることもあります。
裁判例による増額事由の一例としては、加害者が故意に事故を起こした場合や、無免許運転やひき逃げ、飲酒運転など、加害者に重過失がある場合、事故後に事故の証拠を隠滅したり、虚偽の供述や不合理な主張をして事故の責任を争ったりした場合などがあります。
さらに、被害者が植物状態や寝たきりなど重度の後遺障害を負い、近親者が被害者の死亡に比肩するような精神的苦痛を受けた場合は、被害者本人だけでなく、近親者も後遺障害慰謝料を請求することができます。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント(他覚所見について)

2月は個人的に好きな月の一つです。
なぜかというと、私の好きな花である蝋梅が咲く季節だからです。
蝋梅は、蝋細工のようにほんのりと透ける花びらも綺麗ですし、香りもとてもよいので、外を歩いていて蝋梅が植えられているところを見つけると嬉しくなってしまいます。
東京には、蝋梅が植えられている大きな公園がいくつかあるので、休みの日に行きたいと思っています。

前回は、弁護士基準における入通院慰謝料のお話をさせていただきました。
今回は、「他覚所見」についてお話しさせていただきます。

「他覚所見」とは、病院での検査や医師による触診・視診などの診察、画像検査(レントゲンやMRIなど)や医学的検査(血液検査や神経伝導検査など)により、客観的に捉えることができる所見のことを指します。
簡単に言うと、「ここの痛み等の原因は、事故によって生じたこれであると検査によって明らかになっているもの」です。

交通事故で多いパターンの一つが、むちうちで首や腰に痛みが出て、整形外科で「ヘルニア」と診断されるケースです。
実は、これらのケースの多くが、このヘルニアは事故そのものが原因で生じたというより、もともとあったヘルニアが事故を契機に悪化した、もしくは事故に遭って検査をしたらヘルニアが見つかったというケースです。

事故によりヘルニアが生じたのか、もともとあったヘルニアなのかは、MRIを撮ることで分かります。
MRIを撮ったとき、そのヘルニアが最近発生したものであれば、T2撮影法で炎症箇所が白く写るからです。

そして、症状がある箇所に事故により白く写ったヘルニアがある場合には「他覚所見あり」となりますが、白く写らないヘルニアの場合は事故により生じたものではないとされ、「他覚所見なし」となります。

ですので、むちうちでMRIを撮ったら症状がある箇所にもとからあったヘルニアがあったという場合は、「むちうちで他覚所見のない場合」として、入通院慰謝料につき別表Ⅱが適用されることになります。

次回は、弁護士基準と自賠責基準で計算方法や基準が大きく違う項目として、②後遺障害慰謝料を取り上げたいと思います。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント(弁護士基準②)

あけましておめでとうございます。
皆様は初詣にはどこか行きましたでしょうか。
去年は新型コロナウイルスの影響もあり、混み合いそうな初詣はなしにしたのですが、今年はせっかくだからと元旦に近所の神社へお参りに行きました。
元旦も、いつもの冬の早朝も同じはずなのに、なぜか空気が澄んでいるような気がしますよね。

前回に引き続き、今回も弁護士基準についてお話しさせていただきます。

弁護士基準と自賠責基準で計算方法や基準が大きく違う項目として、①入通院慰謝料、②後遺障害慰謝料、③後遺障害逸失利益、④死亡慰謝料、⑤死亡逸失利益、が挙げられます。
今回は、①入通院慰謝料を取り上げたいと思います。


①の入通院慰謝料は、自賠責基準とは異なり、一日あたり何円という計算ではなく、総入通院期間で計算します。
そして、通院1か月で○○円、2か月で○○円といった表があり、怪我の程度によって別表Ⅰと別表Ⅱという表を使い分けます。
原則として別表Ⅰを用いますが、むちうちで他覚所見がない場合や、軽い打撲、軽い挫創の場合は別表Ⅱを用います。
この表の金額はあくまで目安なので、怪我の部位や程度、事故の悪質性によって増減しますし、総通院期間は長いけれどもほとんど通院していないという場合は、別表Ⅰ該当のケースでは実通院日数の3.5倍、別表Ⅱ該当のケースでは実通院日数の3倍を通院期間とみなすこともあります。

先ほど、別表Ⅰと別表Ⅱの表の使い分けのところで、「むちうちで他覚所見がない場合」という例を挙げました。
次回は、このことについてお話しさせていただきます。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント(弁護士基準①)

12月は師走といいますが、この時期は保険会社も年内に示談をまとめてすっきりしたいからか、交渉が進むテンポが比較的速く、電話もひっきりなしに掛かってくるため、弁護「士」も事務所の中を駆け回って大忙しです。

さて、前回は損害賠償金の「自賠責基準」についてのお話をいたしました。

今回は、「弁護士基準(裁判所基準)」についてお話しいたします。

まず、弁護士基準とは、弁護士が代理人として相手方保険会社と交渉する際に用いられる基準です。

裁判になった場合に裁判所が用いる基準と同じことから、裁判所基準とも呼ばれます。

基準自体は、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)と呼ばれる、過去の裁判例を集積して作成された算定基準が記載された本に基づいています。

この本自体は、発行元である日弁連交通事故相談センター(東京の弁護士会館にあります)で誰でも購入することができますし、どうやらフリマサイトなどでも売っている方がいらっしゃるようですので、一般の方も入手自体は可能です。

そのため、これを用いて弁護士でない一般の方が交渉してもよさそうですが、なぜかどの保険会社も「弁護士基準で主張したいなら弁護士を入れるか裁判を提起するかどちらかにしてください。そうでなければ交渉できません。」と言ってきます。

長年交通事故の案件を取り扱っていますが、一般の方で弁護士基準を用いて交渉に成功したという話は残念ながらまだ聞いたことがありません。

(弁護士が事故の当事者なら弁護士基準で交渉できるのでしょうか?私は幸いにも弁護士になってからはまだ事故に遭っていないので、試してみたことはありません。)

次回は、弁護士基準と自賠責基準でどのような項目の金額が変わるのかについてお話しいたします。

今年も当ブログをお読みいただきありがとうございました。来る年もどうぞよろしくお願いいたします。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント(自賠責基準)

弁護士の田中です。

最近は、換気のために開けてある窓からの風が寒くてなかなかつらいです。

よく冷え性といえば女性というイメージがありますが、男性でも寒いものは寒いです(笑)。

前回は、相手方保険会社が提示する金額は「最低限」の基準である自賠責基準よりも高いが、決して「適正」な基準ではないということをお話しさせていただきました。

今回は、自賠責基準の内訳についてお話しいたします。

インターネットなどで「自賠責基準」などと検索すると、大抵以下のようなことが書かれています。

〇傷害(けがのみ、後遺障害なし)の場合120万円

〇慰謝料は入通院一日につき4300円(事故日が2020年3月31日以前の場合は4200円)

(これ以外にも、休業損害についての定めや、後遺障害が認定されたときの金額、死亡した場合の金額などもありますが、ここでは割愛します。)

このような記載をご覧になった方から、「自賠責基準で計算するともっと高くなるはずなのに、相手方保険会社からの提示が低い。ごまかされているのではないか。」というご相談をいただくことはよくあります。

実は、上記記載自体は正しい情報なのですが、これには少し足りない情報がありますので、例を挙げながら説明させていただきます。

まず、傷害のみの場合、支払われる損害賠償金の総額は上限120万円ですが、これには治療費も含まれています。

治療費は、相手方に保険会社がついている場合は、大抵の場合保険会社から病院へ直接支払われますので、治療費を被害者(患者)が立て替えているなどの例外的な場合を除き、治療費分はこの120万円から差し引かれます。

そして、慰謝料は通院一日4300円ですが、通えば通うだけ慰謝料額が増えるというものではなく、実通院日数の2倍と総治療期間のどちらか少ないほうに4300円を掛けたものが慰謝料となります。

さらに、先ほどの「上限120万円」と治療費との兼ね合いで、もし治療費が高額になっていた場合は、慰謝料が上記の計算式どおりに支払われないこともあります。

ここで、

・総治療費80万円

・総治療期間6か月(180日)、実通院日数80日

・その他の項目はなし

のケースを例に見てみましょう。

まず、慰謝料の計算は、総治療期間と実通院日数×2のどちらか少ない方に4300円を掛けたものですが、今回は180日と80日×2=160日を比べると160日のほうが少ないので、4300円×160日=68万8000円となりそうです。

ところが、治療費が80万円かかっており、120万円-80万円=40万円ですので、慰謝料は上記の計算どおりは出ず、40万円が限度となってしまいます。

このように、自賠責保険は「上限120万円」という枠があるので、治療費がかさめばかさむほど実際にもらえる損害賠償金は少なくなってしまうという事態が起こります。

次回は、「弁護士基準(裁判所基準)」についてお話しいたします。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント(保険会社提示の示談書)

ついこの前まで暑かったのに、東京ではこのところ急に冷え込む日が増えてきました。

毎年この時期になると、出勤時に何か羽織るべきか、それとも薄手のニットを着るかなど悩んでしまいます。

前々回まで、示談に関するお話として、「絶対に示談書は焦って返送してはいけない。」ということお話しさせていただきました。

今回は、「相手方保険会社が提示してくる示談書の金額はなぜ低いのか。」についてお話しいたします。

初めに申し上げると、相手方保険会社等から提示される示談書に記載されている損害額の算定は、多くの場合弁護士基準(裁判所基準)で計算しなおすと増額が可能です。

(通院回数が数回程度しかない場合、過失割合が非常に大きい場合、治療中にまた別の事故に遭ってしまった場合などは、例外的にあまり上がらないケースもあります。)

このように聞くと、「計算しなおすと損害額を増額できるということは、保険会社は違法な低い金額を提示しているのか?」と憤慨されるご相談者様はたくさんいらっしゃいます。

実を言うと、確かに保険会社の提示する金額は適正金額よりも低いことが多いですが、それが直ちに違法というわけではないのです。

原動機付自転車や自動車による事故の場合、自動車損害賠償保障法(自賠法)によって最低限度の支払基準(いわゆる「自賠責基準」です)が定められており、それを下回る基準での支払いは違法となります。

一方で、自賠責基準と同じかわずかでも上回ってさえいれば、「適正な金額」ではなくても「違法な金額」ではないので、営利企業である保険会社は少しでも損害賠償金の支払い金額を減らすべく、その間を狙って示談を求めてくるというわけなのです。

次回は、この最低限の基準である「自賠責基準」について詳しくお話しします。

ハイビームを使用しての走行について

9月になり、日没が早くなってきましたね。

東京だと、最近は17時過ぎるとかなり暗くなってしまうので、業務に集中していてふと外を見るともう真っ暗で驚くことがよくあります。

実は、9月以降は8月までと比べ、夕方以降の交通事故の件数が急増するそうです。

日没時間が早まることで、視界が悪くなる時間と通勤通学の帰宅時間が重なることが要因の一つのようです。

夜間の視界確保のためには早めのヘッドライト点灯が重要ですが、令和2年4月から乗用車の新型車はオートライトが義務化されるようになりました(それ以前の車両についてはそのままです。)。

これまでもオートライト機能が搭載されている車両は多かったのですが、どれくらい暗くなるとオートライトで点灯するかは車種によりまちまちだったところ、上記義務化で周囲の明るさが1000ルクスを超えると自動的にヘッドライトがつくようになりました。

1000ルクスとは、晴天時の日没15分程前の明るさとされており、一般的にはまだヘッドライトを付ける必要はないと感じるドライバーが多いくらいの明るさです。

しかし、ヘッドライトがついているとドライバーの視界の確保だけでなく、対向車や歩行者などからの視認性が非常に高まりますので、事故の回避に非常に役立ちます。

また、ロービームではなくハイビームを点けることも、視界の確保と視認性の向上に役立ちます。

平成29年の道路交通法改正で、夜間(日没から日の出まで)は、歩行者や対向車がいるときと、ほかの車両の後ろを走るとき以外はハイビームを点けなければならないとされており、ハイビームであれば100メートル先まで照らすことができますので、視界が悪くなる時間の事故を回避できる可能性が高まります。

ハイビームは眩しいと嫌がられることもありますが、事故防止のためにも暗い道では積極的に使用するようにしましょう。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント13(示談までの流れ)

かなり暑い日が増えてきて、暑いのが苦手な私に厳しい季節がやってきました。

弁護士法人心の池袋駅法律事務所は池袋駅からすぐ近くで、かつ地下道を通れば直射日光も避けられるので、通勤はだいぶ楽なのですが。

前回は、「絶対に示談書は焦って返送してはいけない。」ということをお話しさせていただきました。

今回は、どうして示談書に納得しないまま示談書を返送してしまうのか、その原因について考えてみたことをお話しいたします。

弁護士に依頼せず、被害者ご本人で相手方保険会社とやり取りをしていらっしゃる場合、治療終了又は後遺障害の結果通知から約一か月後を目安として、相手方保険会社から連絡書とともに示談書と損害額の内訳が書かれた書類が送られてきます。

損害額の内訳には、交通費や治療費、傷害慰謝料といった項目ごとの金額が記載され、備考欄には「弊社基準にて計算いたしました。」、「自賠責基準と比較して、高い方を採用いたしました。」などの記載とともに、通院日数等に応じたよく分からない計算式が載っていることがほとんどです。

そして、連絡書には、示談書を〇月〇日までに署名捺印して返送すること、この損害額の計算は今回の示談限りであり、納得しないなら裁判ではこれより低い金額しか提示しない可能性もあること等が記載されています。

この連絡書の記載を読むと、一般の方の中には「この提示された金額で示談しないと、損害賠償金がもらえなくなったり、または裁判になって余計に損をしてしまったりするかもしれない。提示の内容を見る限り、よく理解はできないが何らかの根拠に基づいてきちんと計算してあるようだし、早く示談したほうがいいのかもしれない。」と考えてしまう人も少なからずいるのではないかと思います。

ところが、示談書を期限内に返送しなくても、消滅時効に掛からない限り、損害賠償金を受け取ることができます。

(交通事故で怪我をしたことに対する損害賠償金の時効消滅は、症状固定日から5年ですが、症状固定日については治療の必要性や相当性の観点からのちに争われて前倒しになることがありますので、念のため事故日から5年と数えておくと安心です。)

この期限は、相手方保険会社の担当者が、早く案件を終わらせたいがために設定しているだけですので、法的には何の意味もありません。

ですので、相手方保険会社が指定した期限は無視していただいて構いませんし、担当者から急かされたとしても、「今検討中です。」とだけ返答していただければ、(年単位で放置している等でなければ)基本的には問題ありません。

ところが、焦って示談書を相手方保険会社に返送してしまうと、いくら後から「そんなつもりじゃなかった!」と言って担当者に抗議しても、それを覆すことは困難です。

当法人にいただくご相談にも、返送してしまった示談書を撤回したいといったものが年に何件かございますが、事情をお伺いする限り撤回できないケースであることがほとんどです。

ですので、もし提示された金額に少しでも疑問点があるのであれば、弁護士に一度ご相談ください。

当法人は、「示談金チェック」として、相手方保険会社から提示された損害賠償額が適正かどうか、無料でお調べすることができます。 お調べした結果、ほとんど上昇の見込みがないか、弁護士費用の観点から見てプラスにならない場合は、その旨正直にお伝えさせていただきますので、少なくとも相談して損をすることはありません。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント12(示談までの流れ)

最近はだいぶ蒸し暑い日も増えてきましたね。

昨年の東京の梅雨明けは8月1日でしたが、例年は7月中に梅雨明けとなることが多いですので、早く明けてほしいなと思う今日このごろです。

前回は、「後遺障害の異議申立ては、やったほうがよい場合とそうでない場合があり、できれば弁護士へご相談をお勧めする。」とお話しいたしました。

今回は、その後のステップである、示談についてお話しいたします。

治療終了、または症状固定となり後遺障害につき適切な認定がされたとなると、後は相手方と損害賠償額の交渉を残すのみとなります。

相手方保険会社とのやり取りについて、これはやってはいけないといったことはたくさんお話ししてきましたが、今回の事項はその中でも最も重要です。

それは、「絶対に、示談書は焦って返送してはいけない。」ということです。

これまでにお伝えした「やってはいけないこと」は、もちろん内容によりますが、弁護士にご相談いただければ何かしら次善策を取ることができるものもあります。

ところが、示談書を返送してしまうと、ごくごく例外的な場合を除き、弁護士でもそれを覆すことはできないと思っていただいた方がよいかと思います。

これを見て、約半数くらいの方が、「なんだそんなことか。自分は内容をよく読んで、きちんと納得してから示談するから問題ない。」と思われたのではないでしょうか。

しかし、実際に保険会社から示談書が送られてくると、金額が適正なのかどうかよく分からないまま、何となく納得して示談書にサインしてしまう人や、示談書に同封された連絡書を見て焦って示談書を返送してしまう人は非常に多いのです。 なぜ、このようなことが起きてしまうのか、これまでに私にご相談いただいた方のお話から考えてみましたので、次回はそれをお伝えしたいと思います。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント11(後遺障害異議申立て)

そろそろ梅雨入りの時期ですね。

弁護士として東京地裁やその他いろいろな地域の裁判所に出向くことはよくあるのですが、資料をたくさん抱えているときに傘を差すのは大変なので、そういう日はなるべく晴れていてほしいなと思っています。

前回は、「後遺障害認定結果に書いてあることの意味」について、一例をご紹介しました。

今回は、「後遺障害の異議申立て」についてお話しします。

異議申立てとは、後遺障害の認定結果に納得がいかない場合に、再度等級認定を求める手続きのことです。

この異議申立ての手続き自体は何度もでき、それ自体には費用もかかりません。

ですが、初回の申請と同じ資料で何度も申立てを行っても、結局同じ結果となる可能性が非常に高いです。

そのため、認定結果の別紙に記載された書面の内容から、前回の申請で何が不足していたか、どのような資料を付加すればその不足を補えるかを検討し、異議申立てに臨むことが大切です。

例えば、初回に提出した後遺障害診断書に不備があったり、本来すべきである検査をしていなかったりという場合は、それらを補うことで適切な判断がなされる可能性があります。

また、申請書類に不備や抜けがなかったとしても、初回の申請を相手方保険会社に任せていた場合(事前認定)は、資料を追加したうえで異議申立てをすることで、適切な判断がなされる可能性もあります。

一方で、病院にほとんど行っていない場合や通院期間が短すぎる場合、事故が非常に軽微な場合(過去のブログ記事も参照ください。)などは、仮に異議申立てをしたところで可能性は乏しいということになりますので、あくまでご自身の判断とはなりますが、異議申立てをせず損害額の交渉に移った方が時間の無駄にならないということになります。

もっとも、異議申立てをすべきかどうかは、ご自身での判断が難しいかと思われますので、当法人へご相談いただくことをお勧めいたします。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント10(後遺障害認定結果の読み方)

交通事故の案件を集中的に取り扱う、弁護士の田中です。

大変ありがたいことに、北は北海道から南は沖縄まで、毎日たくさんのご相談、ご紹介をいただき、現在は年間300件以上の交通事故の案件を取り扱っています。

そんな日々の業務で、ご相談いただく前に知っておいていただけたらもっとよい結果になったかもしれないのに、と思うことや、意外とこういったことは知られていないんだな、と思うことが非常にたくさんあります。

そこで、交通事故の被害に遭ってしまった方も、そうでない方も、交通事故で後悔しないために皆様へぜひ知っておいていただきたいことをお話させていただきます。

前回は、「後遺障害申請をしてから認定されるまでに要する時間」として、「おおよその目安として最短で1か月半、長いと半年程度」とお話ししました。

今回は、「後遺障害認定結果に書いてあることはどういう意味か」についてお話しします。

後遺障害申請を行うと、相手方自賠責保険会社から「後遺障害等級結果のご連絡」といった書面(このタイトルは保険会社により若干異なります。)がご自宅に届きます。

この書面は、1枚目に後遺障害に該当するかどうか、該当するとして等級は何かが記載され、2枚目以降の別紙にそのような判断となった理由が記載されています。

しかし、この理由の記載はテンプレートのようなものであることが多く、なぜ該当または非該当なのか、詳しい内容が記載されているわけではありません。

しかし、いくつか記載のパターンは分かれていますので、大まかですがどのような意味なのかは分かります。

例えばむちうちで後遺障害非該当となった場合に一番多いパターンが、「他覚的に神経系統の障害が証明されるものとは捉えられないことに加え、その他症状経過、治療状況等も勘案した結果、将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難いことから、自賠責保険(共済)における後遺障害には該当しないものと判断します。」という記載です。

この記載の場合、誤解を恐れずにごく簡単に言い換えると、「自覚症状と合致する他覚所見はないから12級13号には該当せず、では14級9号に該当するかというと、通院の頻度や治療内容その他を見てもそこまで重傷ではなさそうだから、今の症状は(一生残ることが前提の)後遺障害というほどではなく、時間が経てばじき治る程度のものだと思います。」という意味になります。

非該当となった結果に納得がいかない場合は、「異議申立て」という手続きを取ることができます。 次回は、この異議申立てについてお話しします。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント9(後遺障害申請の手続き)

弁護士法人心の池袋法律事務所で所長弁護士をしている、弁護士の田中です。

年間で300件以上の交通事故の案件を集中的に取り扱っている経験から、交通事故に関して皆様へぜひ知っておいていただきたいことをお話させていただきます。

前回は、「後遺障害申請のための資料収集にかかる時間」として、「診断書等の作成のため、最短でも症状固定日の翌月末までは待つ必要がある」とお話ししました。

今回は、「後遺障害申請にはどれくらい時間がかかるのか」その2として、申請してから認定されるまでにかかる時間と手続きについてお話しします。

申請書類は、まず相手が加入する自賠責の保険会社(相手方の任意保険会社とは別)へ送られ、必要書類が整っているかどうか確認されたのちに自賠責損害調査事務所へ送られます。

自賠責損害調査事務所は、全国計54か所もあり、その上には全国7か所の地区本部、そのまたさらに上には東京に本部があります。

調査事務所では、申請書類に基づいて事故発生状況、自賠責保険の対象となる事故かどうか、傷害と事故との因果関係の有無、後遺障害の該当性などの調査がなされます。

一般的なむちうちの案件の場合、調査にかかる期間はおおよそ1~3か月程度となることが多いですが、繁忙期にはそれより長く掛かる場合もあります。

また、案件によっては地区本部や本部に移送されて判断がなされることもあり、その場合はプラス1~2か月ほど掛かることが多いです。

地区本部等に移送される案件は、等級認定に難しい判断が要求されるため調査事務所では判断ができない案件とされていますが、移送されたから後遺障害等級認定は難しいといったことは決してありません。

実際に、私が担当した案件で地区本部での判断となり、結果として等級が認定されたものが何件かあります。

認定結果が出たら、調査事務所から自賠責の保険会社へ認定結果が送られ、等級が認定された場合はその等級に対応する保険金(例えば、14級なら75万円)は支払われたうえで、認定結果が書面で送付されます。

したがって、後遺障害申請から認定結果が届くまでの期間は、最短で1か月半程度、長ければ半年程度かかることになります。 次回は、後遺障害の認定結果が出たらどうすべきかについてお話しします。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント8(後遺障害申請の手続き)

3月は、毎年交通事故が多い傾向にあると言われています。

師走ほどではないにせよ、年度末ということで慌ただしくなってしまうからでしょうか。

例年とは違い、最近では新型コロナウイルスの影響で対面での挨拶回りなどは減っているようですので、交通事故で大変な思いをされている方のご相談にたくさんのってきた弁護士としては、今年は交通事故件数が少なくなってほしいと思います。

前回は、「後遺障害として認定してもらうために注意すべきこと」として、「ごく軽微な事故の場合は、後遺障害として認定される可能性が極めて低い。」とお話ししました。

今回は、「後遺障害申請にはどれくらい時間がかかるのか」その1として、まず申請のための資料収集にかかる時間についてお話しします。

後遺障害申請に最低限必要な書類については、私の過去のブログ(交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント(後遺障害)2)でお話しました。

そのうち、⑤自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書と、⑥事故で通院したすべての医療機関の診断書,診療報酬明細書については、病院が作成する書類であるため、取り付けに時間を要する場合があります。

後遺障害診断書は、症状固定となった時点で医師に白紙の後遺障害診断書用紙を渡して記載をお願いすることになります。

かかる費用と期間は病院によりそれぞれですので、具体的には直接病院に確認していただくことをお勧めいたしますが、一般的には料金は5000円から1万円、期間は2週間から1か月程度のところが多いようです。

なお、この後遺障害診断書の費用は、後遺障害が認定された場合に限り相手方に請求することが可能です。

経過診断書及び診療報酬明細書とは、病院が保険会社に対し毎月提出する、通院の経過や症状の内容、診療内容とそれに対応する報酬について記載された書面です。

これらは、交通事故の治療で通院したすべての病院につき、初診から症状固定日までのすべての期間につき必要となりますが、上で述べたように通常は保険会社が原本を持っているので、その写しを保険会社から取り寄せる必要があります。

その月の経過診断書等は翌月の半ば頃に保険会社へ提出する病院が多いので、早ければ症状固定日の翌月末には保険会社から取り寄せることが可能ですが、中には数か月掛かってようやく出してくるズボラな病院もあります。

そういった場合、病院に対して早く出してほしいと催促することは可能ですが、こちらが高圧的な態度を取ったことで診断書に適当な記載をされても困りますので、運悪くズボラな病院に当たってしまった場合は、やんわりと頻繁に催促するしかないというのが実情です。

このように、後遺障害申請書と経過診断書、診療報酬明細書のすべてが揃うのは、最速で症状固定日の翌月末、遅いと2か月ほど掛かることになります。 次回は、申請してから認定結果が出るまでの期間と行われる手続きについてお話します。

交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント(後遺障害)7

警察庁の統計によると、2020年の交通事故死者件数は、統計の記録が残っている1948年以降最少の2839人となったそうです。

一方で、東京では前年度より22人増え、53年ぶりに全国ワースト1位となりました。

最近、休日に公共交通機関ではなく自転車を使用することも多いので、私自身も気を付けたいと思います。

前回は,「通院期間が短すぎる場合,後遺障害として認定される可能性は低い。」とお話ししました。

今回は,「後遺障害として認定してもらうために注意すべきこと(要件その2)」として,前回に引き続き,むちうちにおいて後遺障害が認定されにくいケースについてお話しします。

むちうちで後遺障害が認定される可能性が極めて低いケースの3番目が,事故形態がごく軽微というケースです。

具体的に言うと、細い道での対向車同士のミラー接触や、駐車場内での逆突といった事故の場合、それによって生じたむちうちは後遺障害として認定されないことが非常に多いです。

むちうちは他覚的所見がない(画像や神経学的検査などで痛みの原因がはっきりと表れない)場合が多いため,どの程度通院しており,その際のどのように患者が痛みを訴えているかといった事情と合わせて、どの程度の大きさの事故であったのかといった外形的事情も参考にされます。

これは、事故が大きければ大きいほど怪我の程度が大きくなることが多いため、ある程度大きな事故であれば後遺障害として一生残存するほどの症状である可能性があるという経験則に基づくものです。

その点、上に挙げたミラー接触や逆突は、一般的にごく軽微な事故に分類されるものであり、よほどのことがない限りそれらの事故によって大きな怪我をするとは考えにくいため、後遺障害として認定されない方向に働く一事情となります。

このような場合、特に事前認定(相手方保険会社に後遺障害申請をしてもらうことを言います。事前認定について詳しくは「交通事故で怪我をしたときに注意すべきポイント(後遺障害)3」をご参照ください。)では、ほぼ認定は見込めません。

当法人へご相談いただいた場合は、具体的な症状も含めて資料を確認させていただき、これまでの豊富な経験から後遺障害申請をした場合の見通しなどを詳しくお話させていただきますので、ぜひお気軽にご相談ください。 次回は、後遺障害を申請する場合のタイムスケジュールなどについてお話します。